侍ジャパンと、ユニフォームと

野球日本代表、すなわち侍ジャパンのユニフォームなどに関する二、三の事柄。日本代表ネタ、国際大会ネタがないときは野球カードでつなぎます。お許しを。

【侍ジャパンの歴史・記憶 2004アテネ五輪】長嶋監督不在の長嶋ジャパンという十字架

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君たちは野球の伝道師であれ。
前年のアジア予選で、長嶋監督から日本代表のメンバーに向けられた言葉である。野球人口の減少に危機感を募らせる今の野球界にも向けるべきメッセージである。東京オリンピックにおける侍ジャパンの使命とは何なのか。
史上初プロ・アマ混合チームで挑んだ前回のシドニーオリンピックで、日本代表は初めてメダルを逃してしまった。
もはやオールプロで行くしかないと日本球界は長嶋ジャパンを結成し、予選であるアジア選手権に挑んだ。結果は全勝でアテネ五輪出場の切符を手にしたのだが、翌年の2004年3月4日、長嶋監督が脳梗塞で入院というニュースが飛び込んできた。

一度は具体的な監督交代も話し合われたが、全日本野球会議は5月に長嶋監督の続投を発表した。早期回復を期待しての決断であったが、最終的には医師団の判断で長嶋監督のアテネ行きを断念して代表チームの指揮はヘッドコーチである中畑清がとることになった。

長嶋監督不在の長嶋ジャパンでアテネ五輪を戦うことになったのである。
日本代表のメンバー選考は、12球団から各2名ずつという、球団からすれば均等なわけだが日本代表としては歯がゆさの残る編成となった。アジア予選の代表チームからはメジャー移籍した松井稼頭央や井端、二岡などが外れた。
オーストラリア代表にタイガースJFKのウィリアムズ、後の代表監督デビッド・ニルソンなどが選出されていた。台湾代表にはヤンキースで最多勝をとるこになる王建民がいたのである。

 

日本代表メンバー

監督

33 中畑清

 

コーチ 

32 大野豊       
31 高木豊 


投手

11 清水直行(千葉ロッテM)
13 岩瀬仁紀(中日D)
15 黒田博樹(広島C)

16 安藤優也(阪神T)
18 松坂大輔(西武L)
19 上原浩治(読売G)
20 岩隈久志(大阪近鉄B)
21 和田毅(福岡ダイエーH)
30 小林雅英(千葉ロッテM)
61 石井弘寿(ヤクルトS)


捕手

9   城島健司(福岡ダイエーH)

59 相川亮二(横浜B)


内野手

2   小笠原道大(日本ハムF)
5   中村紀洋(大阪近鉄B)
6   宮本慎也(ヤクルトS)
8   金子誠(北海道日本ハムF)
25 藤本敦士(阪神T)


外野手

1   福留孝介(中日D)
10 谷佳知(オリックスB)
23 村松有人(福岡ダイエーH)
24 高橋由伸(読売G)
27 木村拓也(広島C)
55 和田一浩(西武L)

 

 

基本オーダー

1(右)福留孝介
2(遊)宮本慎也
3(中)高橋由伸
4(捕)城島健司
5(三)中村紀洋
6(左)谷 佳知
7(一)小笠原道大
8(指)和田一浩
9(二)藤本敦士

 

 

 

 

 

 

For The Flag
日本からアテネの日本代表に向けて長嶋監督が掲げたスローガンである。日本代表は球場のベンチに、長嶋監督のユニフォームと、監督自らが自由の利かない右手に代わり左手で「3」を刻み込んだ日の丸を掲げて試合に臨んだ。

 

 

予選リーグ

第1戦
イタリアvs日本
🇯🇵  2 0 3  1 1 4  1   12
🇮🇹  0 0 0  0 0 0  0   0
(日)上原、三浦 ─ 城島、相川
【本】中村1号、福留1号

 

予選リーグ第1戦のイタリア戦、初戦の先発はやはり上原浩治である。打線は中村紀、福留のホームランなどで大量12得点。投げては上原、三浦の完封リレーで7回コールド勝ちと幸先の良いスタートだった。

 


第2戦
日本vsオランダ
🇳🇱  1 2 0  0 0 0  0 0 0   3
🇯🇵  1 1 0  0 2 0  0 4 X   8
(日)岩隈、石井、黒田、岩瀬 ― 城島
【本】藤本 1号

 

2戦目のオランダ戦はチーム最年少の岩隈が先発。好調なレギュラーシーズンのようなピッチングを期待されたが、初回に1失点、2回にはさらに2点を失い満塁で降板と悔いが残った。
だが、4回から黒田が5イニングのロングリリーフと試合を立て直した。攻撃陣は宮本、高橋、城島、中村紀ら上位打線の活躍で8得点である。

 


第3戦
キューバvs日本
🇯🇵  0 2 0  2 0 0  1 0 1   6
🇨🇺  0 0 0  0 0 0  0 0 3   3
(日)松坂、石井 ― 城島
【本】和田 1号、城島 1号、中村 2号

 

3戦目は大一番となるキューバ戦。
もちろん先発はエース松坂大輔。
「キューバに勝つのは私の悲願。普段通り集中してプレーするだけです」試合直前に日本の長嶋監督からの激励メッセージが伝えられた。
2回に和田一浩の2ラン、4回には城島、中村紀の連続アーチで4点をリードする展開となった。
4回裏、グリエルのライナーが松坂の右上腕部に直撃する。だが松坂は患部にテーピングを巻き、アイシングしながらその後もピッチングをつづけた。
エースの気迫が流れつくり、2点を追加した日本代表。オリンピックの舞台で初めてキューバを撃破した歴史的勝利である。

 


第4戦
日本vsオーストラリア
🇦🇺  0 0 0  3 0 0  3 3 0   9
🇯🇵  0 0 0  1 3 0  0 0 0   4
(日)清水直、岩瀬、三浦、石井、安藤 - 城島
【本】福留 2号

 

4戦目のオーストラリア戦、先発は清水直行。序盤は清水のペースで進んだが、4回にストレートを狙われ5連打3失点。福留の3ランなどで一時は逆転するが、三浦、安藤で6失点を喫して完敗となった。全勝で金メダルを目指した日本代表だが、格下オーストラリアにまさかの敗戦である。

 


第5戦
日本vsカナダ
🇨🇦  0 0 0  0 0 0  0 0 1   1
🇯🇵  2 1 1  3 1 0  0 1 X   9
(日)和田毅、岩瀬、小林雅 - 城島
【本】高橋由 1号、谷 1号、和田一 2号

3Aクラスの選手を揃えてきたカナダ代表に対して、投打が噛み合い快勝。
先発の和田は7回を無失点に抑えた。

 


第6戦
日本vs台湾
🇹🇼  0 0 3  0 0 0  0 0 0  0   3
🇯🇵  0 0 0  0 0 0  3 0 0  1   4
(日)上原、石井、黒田 ― 城島
【本】高橋由 2号

 

午前10時半プレイボールと、不慣れな登板に調子が上がらない先発の上原浩治は、台湾の4番・陳金鋒に先制のスリーランホームランを打たれる。
だが7回裏に日本は、高橋由伸のツーランホームランなどで同点に追いつき、延長の末になんとか勝利し決勝ラウンド進出を決めた。

 


第7戦
ギリシャvs日本
🇯🇵  0 1 0  0 0 1  4 0 0   6
🇬🇷  0 0 0  0 0 0  1 0 0   1
(日)清水直、岩瀬、三浦、小林雅 ― 城島、相川
【本】福留 3号、高橋由 3号

 

勝てば予選1位通過となる予選リーグ最終ゲーム。先発予定だった岩隈が体調不良となり、中三日で清水直行がマウンドへ。
清水は7回途中までを1失点に抑えた。
打線はギリシャ先発のメレヘスをなかなか攻略できなかったが、7回に福留と高橋由伸のホームランでようやく突き放した。

日本代表は予選リーグ6勝1敗の1位で準決勝進出となった。

 

 

 

 

決勝ラウンド

準決勝

日本vsオーストラリア
🇦🇺  0 0 0  0 0 1  0 0 0   1
🇯🇵  0 0 0  0 0 0  0 0 0   0
(日)松坂、岩瀬 ― 城島

 

準決勝の相手はオーストラリアである。
2度も同じ相手に負けることは許されない。金メダルが至上命令であるならば、負けることは許されない準決勝。
先発は当然の松坂大輔。
キューバ戦での負傷で万全ではなかったのだが、初回を三者連続三振、5回まで10奪三振である。さらに被安打1、無失点と完璧な投球だったが、日本代表も点を奪えない。
迎えた6回表。2アウト1、3塁から松坂はキングマンにタイムリーを浴びてしまう。この1点が決勝点となり、日本の金メダルへの道は閉ざされた。

 

 

3位決定戦

カナダvs日本
🇯🇵  2 0 4  1 0 0  0 4 0   11
🇨🇦  0 0 0  1 1 0  0 0 0   2
(日)和田毅、黒田、小林雅 ― 城島、相川
【本】城島 2号

 

3位決定戦の相手はカナダ代表である。先発は予選リーグと同じく和田毅。
和田は初回からトップギアで3回を5奪三振、2失点と試合をつくった。
打線は初回に城島の2ランで先制、3回には和田一のタイムリーで追加点をあげる。継投の黒田は3回を無得点、5奪三振の力投である。銅メダル。オールプロの長嶋ジャパンとしては最低限、とりあえず最低限の結果は残した。



オーストラリア代表は、4勝2敗で迎えた予選リーグ最終戦のカナダ戦を落とした。カナダも共に4勝2敗であったが、オーストラリア代表は攻守の要のニールをスタメンから外すなど、0体11で敗戦にもっていった。準決勝でキューバではなく日本と対戦するためである。
日本にはこのような駆け引きというか、戦略というものがなかった。全勝で駆け抜けて金メダル。これが日本代表がアテネ五輪で掲げた目標である。あまりにも素直、あまりにも愚直である。
日本は消化試合ともいえる予選リーグ最終戦で、野手のスタメンをまったく入れ替えることなく戦った。
ここで予選1位通過にこだわる必要はまったくなかった。2、3位通過なら準決勝はナイターである。相手はオーストラリアかカナダと変わらない。
決勝進出なら2試合つづけてナイトゲームとリズムをつくりやすい。予選リーグ最終日のスケジュールは日本には不利であったが(日本戦の結果次第で他国は戦略を変えることができた)、少なくともスタメン選手の体調を考慮した試合にはできたはずである。
オールプロの長嶋ジャパンは、国際大会においてはまったくのアマチュアチームであったことが露呈してしまったわけである。また、オールプロ故に全勝で金、という十字架。アテネに来ることすら叶わなかった長嶋監督の幻影。長嶋ジャパンは多くのものを背負いすぎた。言い訳かもしれないが、それは事実だろう。
2年後に、野球界においてまったく新しい国際大会が開催されることになる。アテネ五輪での課題が2006WBCでは改善されたのかどうか、それはまた次の機会に。