侍ジャパンメンバー発表:日刊スポーツ
存在を、すっかり忘れていた。アジチャン? なにそれ? という感じで、たぶんみんなそうだった。
正式名称はアジアプロ野球チャンピオンシップ。
言葉が長い。名前だけで息が切れる。
だがその存在を思い出した瞬間、胸のどこかがチリチリと焦げる。あ、そういえば、そんな大会ありましたよね、と。
思い出すまでもなく、コロナ禍の混乱で消えたのだ。
開催中止。延期。無期延期。
無音のまま、空気のように消えていった。しかも過去一度きりの開催。規模は小さく、記憶も薄く、誰もその名を叫ばないまま時間の底で発酵していた。そんな大会が、6年ぶりに、ぬるっと、蘇った。
そう、まるで夢の中で見た幽霊が、朝の台所に立ってたみたいに。

侍ジャパンのメンバー発表。
一面を飾るのは牧。神奈川の牧。あの牧が、である。チーム唯一のWBC組。
U-24という枠の中で、当然ながら牧が太陽であり、核であり、中心。彼を中心にチームが回る。惑星が重力に従うように。
運命が牧に吸い寄せられるように。

そして、万波中正。WBC強化試合ではサポートメンバーとして帯同していたあの万波が、今回は正式に選出。
おお、なんともいえず、美しいではないか。努力が報われる瞬間というのは、たぶん音がする。「カチリ」と、見えない鍵が回る音がする。
そういう音がした。
それがアジチャンである。
国際大会だけど、4ヶ国しか出ない。日本、韓国、台湾、オーストラリア。
コンパクト。
でも、それがいい。密室的で、熱が逃げない。メジャーリーガーはいない。だが未来がいる。
未来が、そこかしこに転がっている。

牧と同期の世代。佐藤輝明、今井達也、早川隆久。このあたりが、次のWBCではチームの主軸になるだろう。
その中でも、サトテル──佐藤輝明への期待は、もうほとんど神話の域だ。
タイガースの4番から、侍ジャパンの核へ。あの豪快なスイングの中に、「この時代を俺が殴り返す」という意思が見える。
覚醒という言葉が軽すぎる。
あれは、覚醒じゃない。暴発だ。
そして、そして。言わせてもらう。この場を借りてでも言いたい。
近頃の侍ジャパンメンバー発表前の小出し情報、あれ、ほんとにやめてくれ。やめてほしい。
もうダメ。耐えられない。
あの瞬間にしか味わえない「発表のトキメキ」を、お前たちはどれだけ台無しにしてきたんだ。あの、息が詰まるような発表の瞬間を返してくれ。半減どころじゃない。五割どころか、一割だ。
心拍数の推移で言えば、死んでる。
まったくもって、スカポンタン。