プレミア12 韓国戦:トーチュウ
台湾の侍ジャパン。湿気が肌にまとわりつく。空がぬるい。遠くで犬が吠えている。知らんけど。
そんな中で始まるのだ、第3回プレミア12、オープニングラウンド第2戦。知らんけど。
まるで誰かの夢の続きみたいに始まる。相手は韓国。つまりは野球界、いやスポルツ界の因縁、業、呪い、そして希望。
あらゆる感情がぐちゃぐちゃに絡まったまま、マウンドに立つのは──やはり高橋宏斗なの。そうだろう。そうでなくてはならない。
それでは行くぜ、行こう、スポーツ新聞の世界へ。

4イニングで8奪三振。数字だけ見れば神の子である。言い過ぎるだが悪くもない。
だが2失点。その2という数字の重みを彼は「猛省」という形で背負っている。
猛省。
いい言葉だ。あれはもう、日本野球の伝統芸能だ。投げて、打たれて、猛省して、成長する。
そういうのを何度も見てきた。だがこの高橋宏斗の猛省は、なんかちょっと違う。湿度がある。熱がある。自分の中に潜む「完璧主義という病」を抑えきれずに、汗のように滲み出る反省。それがエース候補というやつの宿命だ。
そして、ここがまた東京中日スポーツである。「侍ジャパン」とは書かない。「井端ジャパン」と書く。

それにしても、村上、岡本という日本野球の重石たちが辞退して空いた「4番の椅子」
そこに森下翔太が座ったというのだから、もうこれはロマンと無謀のはざまだ。
あの若さで4番。プレミア12とはいえ、井端監督の期待が見える。
「お前が未来の火だ」とでも言いたげな采配。
記事には“プライス弾”とある。何がプライスなのかは、もう誰にもわからない。
だがいいじゃないか。野球はいつだって説明不能のスポーツだ。

試合後、井端監督は笑って言う。「勝ててよかった」。
それがもう、フラカンの「深夜高速」みたいに胸に刺さる。
「生きててよかった」みたいに「勝ててよかった」である。
試合は戦争ではない。詩なのだ。つまりは命の残響。
継投は隅田、藤平、大勢。
圧巻だった。言葉にすると安っぽくなるけど、本当に圧巻だった。
特に藤平尚真。井端監督の「鶴の一声」で呼ばれたような存在。
その男が1イニングで3Kを奪う。球場の空気が一瞬、凍る。
ああ、この感じ、これだよ。これが野球だよ。WBCでも見たい、と思った。
それは観客としてではなく、信徒としての祈りに近い。
野球という宗教にまだ火が残っているなら、その灯を掲げているのは、きっと侍、いや井端ジャパンだ。