プレミア12 アメリカ戦
気がつけば1ヶ月近く経っている。
WBC2026が終わって。終わったと言っても、終わったという事実だけが先に行ってこちらの時間は妙にぬめぬめと取り残されている。
新年度?とっくに始まっている。プロ野球?しれっと開幕している。世の中は勝手に次の章へページをめくっているのに、こちらは指を挟んだまま「ちょっと待て」と言っているような有様である。
しかもその間に、アルテミス2が月の裏側に到達したとかいう話まで飛び込んできて、もう何が何だか分からない。人類は月の裏に行っているのに、わたしは何をしているのか。
石ころである。完全に石ころ。誰かに蹴飛ばされて、カランと音を立てて転がり、転がりながら「ああ今日も終わるのか」とぼんやり夕暮れを待っている。
時間だけがびよーんと伸びて、気づけば何もしていない自分がそこにいる。いや、何もしていないというのも嘘で、していないことをしている。空白を維持する作業に没頭している。
なんだそれは。意味があるのか。ない。だがそれでも時間は進む。勝手に進む。こちらの都合など一切聞かない。ひどい話である。
そんなわけで、というのも変な話だが、途中で止まっていた侍ジャパンのスポーツ新聞アーカイブを、ここでそっと再開しておく。再開というか、放置していたものに手を触れるだけなのだが、それでも何かを始めた気にはなる。気だけはある。中身はともかく。
しばらくはネタもない。ないものはない。無理に絞り出すとろくなことにならないのは分かっている。だからまあ、あるものをあるようにいじくり回しながら、紙の匂いでも嗅いで時間をやり過ごすしかないのだろう。そんな調子で、まただらだらと続いていく。終わる気配は、今のところない。
ようこそ侍ジャパン・スポーツ新聞アーカイブへ。

結果だけを見れば対米4連勝、はいはい強い強い、無敵無双、もう勝ちすぎて逆に怖いわ、っていう、そういう雑な感想をまず蹴飛ばしておいてから話を始めたいのであるが、しかしその「アメリカ」、あんたほんまに同一人物か、今年と去年で顔違うやろ、別人やろ、替え玉やろ、みたいな話であって、このアメリカとWBCのアメリカは同じ国旗を背負っているだけの、実質的には別種の生き物である、ぬるりとした変身譚である。
だから4連勝っていっても、その内訳は一枚岩の敵を粉砕した武勇伝というより、異なる質量の何かをその都度踏み抜いてきただけの話であって、ここを混同すると、話が一気に雑になる、ぐちゃっとなる。
そしてそれは日本も同じである、というかむしろこっちの方が露骨であって、大谷翔平がいるかいないか、それだけでチームの相貌が、輪郭が、いや輪郭なんて生ぬるい、骨格からして別物になる。いる時は神話、いない時は現実、あるいはその逆転、いずれにせよ一貫性などというものは最初から存在していない。
で、この試合である。
主役は誰か、そんなもん決まっとるやろと、画面の向こうから殴りかかってくる勢いで名乗り出たのが小園海斗である。
2本塁打、7打点。数字が暴力。言葉が追いつかん。覚醒?いやいやその言葉の安売りはやめてください、と言いつつも、じゃあ何ですのと問われたら黙るしかない、そのくらいの殴打力。
試合が彼を必要としていた、などと気取った言い方もできるが、実際には逆で、彼が試合を必要として、そして丸ごと飲み込んでしまった、がぶりと、骨ごと。

投げる方に目をやると、高橋宏斗対ヒル、44歳。
この年齢差、22年。ほぼ人生一回分。
ここにロマンを見出すのは簡単である、若さと経験の対比だとか、世代の継承だとか、そういうテンプレートを貼り付ければそれっぽい文章はいくらでも量産できる。
しかし違う、そうではない、そんな綺麗な話ではない。
これはもう、大会そのものの素性が、うっかり表に出てしまった事故現場である。
プレミア12という器の中で、何を競わせたいのか、どの層を主役に据えたいのか、その設計思想が、ヒビから漏れて見えてしまった瞬間である。
だから思うのである。
若手でいいじゃないですかあ、と。むしろ潔く年齢制限つけてしまえ、と。
WBCが頂点を決める祭壇なら、プレミア12は途中経過をさらす若さの過酷な実験場でいいじゃないですかあ、と。
完成品と未完成品を同じ棚に並べて「どっちが上?」とかやるから話がややこしくなるのであって、最初から棚を分けてしまえばいい、完成は完成、過程は過程、混ぜるな危険、である。
見る側の頭の中も、その方がよほどすっきりする。
すっきりするし、なにより、無駄に神話を背負わされずに済む。
野球は野球として、ただ転がり、ただ打たれ、ただ吠える、その雑で粗くてどうしようもない運動体として、ようやく息ができる。
発行日:2024年11月22日
新聞名:日刊スポーツ
大会:プレミア12 2024 スーパーR
対戦カード:侍ジャパン vs アメリカ
内容:試合結果と主力選手の活躍