東京オリンピック開催
北京オリンピック以来、13年ぶりとなるオリンピックでの野球である。
タイトルは2020としたが、ご存知のとおり実際の東京オリンピック開催は2021年である。
WBCとは異なりメジャーリーガーは不在で、出場国はプレミア12の半分の6ヶ国のみ。それでもやはりオリンピックは特別なのだ。
オリンピックで金メダルを獲得する。
これは日本野球界の悲願であり、果たすべき使命でもあった。
個人的には少し、異常ではないか、と思うほどにオリンピック命の国民性である。少なくとも、野球は別にそこまでこだわらなくてもいいのではないかと思うのだが、もしかするとWBC以上にオリンピックでの金メダルに熱量を注いでいるのかもしれない。
ましてや今回は13年ぶりである。さらには東京開催である。
色々と書いたが、この先死ぬまでに日本でオリンピックを、さらには野球を観戦できる、なんてことはもう二度とないような気がして、絶対にないような気がして、結局はオリンピックでの侍ジャパンの戦いが楽しみでしかなかった。
幸運にも野球で五輪チケットが当選した。すべての運を使い果たしたような気がした。
でも、東京オリンピックがどうなったか、それはみなさんがご存知の通りだ。
日本代表メンバー
監督
80 稲葉篤記
コーチ
88 金子 誠
81 建山義紀
84 村田善則
82 井端弘和
87 清水雅治
投手
12 青柳晃洋( 阪神T)
13 岩崎優(阪神T)
15 森下暢仁(広島東洋C)
16 伊藤大海(北海道日本ハムF)
17 山本由伸(オリックスB)
18 田中将大(東北楽天GE)
19 山崎康晃(横浜DeNA)
20 栗林良吏(広島東洋C)
21 千賀滉大(福岡ソフトバンクH)
22 大野雄大(中日D)
61 平良海馬(埼玉西武L)
捕手
7 梅野隆太郎(阪神T)
10 甲斐拓也(福岡ソフトバンクH)
内野手
1 山田哲人(東京ヤクルトS)
2 源田壮亮(埼玉西武L)
3 浅村栄斗(東北楽天GE)
4 菊池涼介(広島東洋C)
6 坂本勇人(読売G)
55 村上宗隆(東京ヤクルトS)
外野手
8 近藤健介(北海道日本ハムF)
9 柳田悠岐(福岡ソフトバンクH)
31 栗原陵矢(福岡ソフトバンクH)
34 吉田正尚(オリックスB)
51 鈴木誠也(広島東洋C)
基本オーダー
1. (指) 山田 哲人
2. (遊) 坂本 勇人
3. (左) 吉田 正尚
4. (右) 鈴木 誠也
5. (一) 浅村 栄斗
6. (中) 柳田 悠岐
7. (二) 菊池 涼介
8. (三) 村上 宗隆
9. (捕) 甲斐 拓也
グループステージ
グループA
第1戦:福島あづま球場
🇯🇵日本 vs. 🇩🇴ドミニカ共和国
🇩🇴 0 0 0 0 0 0 2 0 1 3
🇯🇵 0 0 0 0 0 0 1 0 3X 4
(日)山本、青柳、平良、山崎、栗林 ― 甲斐
侍ジャパンの先発は山本由伸。ドミニカ共和国の先発は巨人のメルセデス。
初回の山本はガチガチに緊張しているように見えたが無失点に抑え、2回以降は安定した投球になった。 一方のメルセデスもいいピッチングで、侍ジャパン打線も吉田正尚のヒット1本に抑えられていた。
7回表に好投の山本由伸から青柳晃洋に交代したが、そこでドミニカ打線につかまりホアン・フランシスコ(元巨人)、エリク・メヒアにヒットを打たれ、キャッチャーのチャルリエ・バレリオに2点タイムリーを打たれて先制された。
その裏に村上宗隆の内野ゴロの間に1点を返すが、9回表にグスタボ・ヌニェスのタイムリーで1点を追加される。
初戦から万事休すの9回裏に柳田悠岐の奇跡の内野安打に、代打近藤健介のヒット、村上宗隆のタイムリーで1点差に詰め寄る。
その後、近藤の代走に源田壮亮が出て、甲斐拓也がスクイズを決めた。そして坂本勇人に打順がまわり、初球を叩いてサナヨラ勝ちを決めた。
第2戦:横浜スタジアム
メキシコ vs. 日本
🇯🇵 0 1 1 3 0 0 1 1 0 7
🇲🇽 1 0 0 1 0 0 0 2 0 4
(日)森下、伊藤、平良、栗林 ― 甲斐
【本】山田1号、坂本1号
侍ジャパンの先発は森下暢仁。メキシコ代表の先発はフアン・パブロ・オラマ。
1回裏、メキシコは一死2塁のチャンスに元オリックスのメネセスがタイムリーで先制する。
日本の反撃は2回表。ニ死1、2塁のチャンスに甲斐のタイムリーで同点に追いつく。
さらに3回表に浅村のピッチャーゴロの間に1点を追加し勝ち越した。
そして4回、山田哲人の3ランホームランが飛び出した。
メキシコは無死1、3塁からエイドリアン・ゴンザレスの併殺打の間にランナーが返り1点を返した。
7回表に日本はフルカウントから坂本勇人がレフトスタンドへホームランを放つ。さらに8回表には山田哲人がニ死2塁の3-1からセンターへのタイムリーヒットで7点目を奪う。
メキシコは8回裏に先制タイムリーを打っているメネセスが、平良海馬から二死1塁で左中間への2ランホームラン。
侍ジャパンは3点差に詰め寄られるが、最後は栗林がノーヒットで抑えてゲームセット。
甲斐→山田哲人→坂本と下位打線からの上位打線が機能し、得点を積み上げた。
だが4番の鈴木誠也、柳田悠岐に当たりが出てないのはやはり気がかりであった。
先発の森下暢仁は立ち上がりは固さが見られたが、2回以降は安打していた。
2番手の伊藤大海もルーキーとは思えない圧巻の投球。8回から登板の平良海馬はシーズンでは打たれていないホームランを打たれた。今日当たっていたメネセスだったのでもっと用心してもよかったのではないか。
最後は栗林が安定したピッチングで9回を締めた。
ノックアウトステージ:横浜スタジアム
第1戦
日本 vs. アメリカ
🇺🇸 0 0 0 3 3 0 0 0 0 0 6
🇯🇵 0 0 2 1 2 0 0 0 1 1X 7
(日)田中、岩崎、青柳、千賀、山崎、大野、栗林 ― 梅野、甲斐
【本】鈴木1号
侍ジャパンの先発は田中将大。アメリカ先発はシェーン・バズ。
先制は3回裏の日本。2死から2番坂本ツーベースヒットを打つと、つづく吉田のタイムリーで1点を返し、さらに満塁として、6番柳田の内野安打の間にさらに1点を奪った。
しかし直後の4回表にアメリカは田中将大を攻めて3点を奪った。
日本もすぐに同点に追いつくが、5回に代わった青柳が3ランホームランを浴びてふたたび3点差にリードを拡げられた。
だが日本も負けてはいない。5回裏にまずは鈴木誠也のホームランで勢いをつけると、浅村と菊池で1点を返した。
投手陣も6回以降はアメリカ打線を封じ、1点ビハインドの9回も、大野が3人で抑え反撃を待った。
そして9回裏、1死から鈴木が四球で出塁すると、浅村のヒットで1、3塁。柳田の内野ゴロの間に同点に追いついた。
延長タイブレークで栗林がアメリカを無失点に抑えると、日本は無死1、2塁から代打栗原が初球で送りバントを決めた。アメリカは内野5人シフトで外野に抜けさせまいとしたが、甲斐拓也が初球をすくい上げ、ライトの頭上を超えるサヨナラヒットを放ったのである。
個人的なことを書く。
この試合のチケットを持っていた。チケット当選のメールが来て、1年。新型コロナウイルス感染拡大のため東京オリンピックは延期。また1年待って、最後は無観客試合となった。
見に行くはずだった試合当日、新型コロナに感染した。1ヶ月、寝たきりとなった。
個人的なことを書いた。
準決勝
日本 vs. 韓国
🇰🇷 0 0 0 0 0 2 0 0 0 2
🇯🇵 0 0 1 0 1 0 0 3 X 5
(日)山本、岩崎、伊藤、栗林 ― 甲斐
侍ジャパンの先発はエース山本由伸。
打線は3回に坂本の犠牲フライで1点を先制。5回には吉田正尚のタイムリーで2点目を奪った。
先発の山本は5回を2安打無失点の好投だったが、6回表に3連打で1点を失い岩崎にスイッチした。岩崎も同点打を打たれてしまうが、後続を連続三振で勝ち越しを許さなかった。
圧巻は7、8回を投げた伊藤大海。2イニングを1安打3三振の好投。韓国からロジンバッグの使用法にクレームをつけられるも動じることなく、それどころか「追いロジン」で返り討ちにした。
同点で迎えた8回裏、満塁のチャンスに山田哲人が左翼フェンス直撃の走者一掃のツーベースで3点を勝ち越し。
最終回は守護神・栗林が締めて決勝進出を決めた。日本代表にとっては、オリンピックでは1996年アトランタ以来の決勝進出である。
決勝
日本 vs. アメリカ
🇺🇸 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
🇯🇵 0 0 1 0 0 0 0 1 X 2
(日)森下、千賀、伊藤、岩崎、栗林 ― 甲斐
【本】村上1号
実に25年ぶりとなる、オリンピック決勝の舞台。
侍ジャパンの先発は森下暢仁。
日本は3回裏に村上のホームランで先制。
その後はなかなか追加点が取れなかったが、8回裏に山田哲人がヒットで出塁、坂本がきっちりとバントで送ると、3番吉田正尚がセンター前ヒット。アメリカの送球ミスの間に山田が静観し、貴重な追加点が入った。
リードはわずかに2点だったが、侍ジャパンのストロングポイントである投手陣にはこれでじゅうぶんだった。
先発の森下は150km/hのストレートと110km/hのカーブの緩急をつけたピッチングでアメリカ打線を翻弄。5回を無失点で投げきった。
その後は千賀、伊藤、岩崎が鉄壁リレー。特に8回表の、無死1塁で伊藤から岩崎にスイッチした継投がこの試合を決めたと思う。
最後は守護神・栗林が胴上げ投手となり、侍ジャパンはオリンピックで野球が公式競技となって初の金メダルを獲得した。
稲葉ジャパン総括
稲葉篤紀が2017年7月に侍ジャパン・トップチーム監督に就任して4年、東京オリンピックでの金メダル獲得だけを目指した4年間、というのは決して過言ではないだろう。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、オリンピック開催が1年延期になるという、前代未聞の事態に直面しながらも、悲願を達成した。
稲葉監督が就任以来掲げてきたのは「スピード&パワー」である。もちろん、日本代表の根底には世界に通用する投手力、繊細さと自己犠牲の精神、これらがある。これらに加えての「スピード&パワー」である。
これは前任の小久保監督を継承している。小久保前監督はさらに、特に打線の中軸には個人で打開できるパワーを前面に出そうとしていた。だがそこにまだ日本代表としての限界を感じていた稲葉監督は、スモールとビッグのハイブリッドを目指し、「1点を取る」ことの重要性をチームに浸透させた。
東京オリンピックでは、これらの成果が存分に発揮されたのではないかと思う。
そして、稲葉監督が目指したのが「良い選手を選ぶ」ことではなく、「良いチームをつくる」ことだった。このことで選手選考では批判も多かった。
オリンピック開催が1年延期になっても、やはりプレミア12のメンバーを中心とした選手選考を押し進めたことは不安視された。だが稲葉監督が求めたのは「良いチームをつくる」ことであり、「結束力」であった。そのとき調子のいい選手を集めるのではなく、チームの和の一人として機能する選手たちを選び、それを最高の結果に結びつけたのだ。
さらに、これまでの野球日本代表がずっと、いい意味でも悪い意味でも背負いつづけてきた「日の丸の重み」という名の前時代的な価値観。強迫観念。悲壮感。これらの呪縛から解き放たれたチームだったように思う。
当然のことに、クラブチームで明日もあるレギュラーシーズンを戦うのと、代表チームで明日のない戦いをするのはかなり違う。そこに「日の丸の重み」は確かにあるし、背負っているものも違う。そこにはプラスの側面もあるが、マイナスの面もある。
選ばれた選手のみが知る日の丸の緊張感は、かけがえのない経験値だが、そこで本来の、野球をプレイする喜びを失ってしまっては本末転倒である。
その原点を、当たり前のように取り戻していた若い世代が手繰り寄せた金メダル。もちろん、ただただ楽しく、のびのびやればいいわけではない。締めるべきところは締める。継承すべきことは継承していく。そんな緩急というか、メリハリがうまく機能していた。そこに、野球日本代表が新しい時代に突入しているのを感じた。