侍ジャパンと、ユニフォームと

野球日本代表、すなわち侍ジャパンのユニフォームなどに関する二、三の事柄。日本代表ネタ、国際大会ネタがないときは野球カードでつなぎます。お許しを。

【侍ジャパンの歴史・記憶 2023WBC前篇】立ち上がる・挑む・転回する侍たち

侍Jの記憶WBC2023前篇

 

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WBC、6年ぶりの開催

暗闇を抜けた2023年の春

沈黙と閉塞の季節をくぐり抜けた果てに、ようやく幕が開けた── 第5回ワールド・ベースボール・クラシック。

この開幕は、わかってる、あまりにも平凡な表現であることは、でもやはり言わせてほしい── この開幕は、あたかも長い冬の終わりを告げる一筋の春光のようだった。

新型コロナウイルスの影響で失われた2つの季節は、単なる空白ではなく、むしろかつてないほど濃密な期待と準備の時間だったというわけだ。

 

トラウトのリクルート

2022年、ロサンゼルスの熱気漂うMLBオールスターゲームの夜、ひとりの男が静かにその決意を告げた。

エンゼルスのマイク・トラウト、彼の存在自体がひとつの物語であり、彼がアメリカ代表の主将として第5回WBCに参戦すると発表したその瞬間、何かが確実に動き出した。

そこに呼応するように、アメリカをはじめ各国の大物選手たちが次々とその名を連ね、次第に大会全体が一種の磁場のようなものを帯びていくのが感じられた。

 

史上最強の侍ジャパン

そして、日本代表── 侍ジャパンと呼ばれるそのチームにおいても、大谷翔平、ダルビッシュ有、鈴木誠也といったメジャーリーガーたちが参戦を表明し、さらに物語に深みを与える異色のキャラクターが加わった。

カージナルスのラーズ・ヌートバー。日系アメリカ人である彼の参加は、侍ジャパンのこれまでの枠組みを超えた新しい試みだった。

そしてまた、メジャー挑戦1年目の吉田正尚の参戦。このチームが一つの歴史的な「完成形」として構築されていく過程には、偶然の積み重ねと必然が同居していたように思える。

 

 

日本代表メンバー

監督

89 栗山 英樹

 

ヘッドコーチ

90 白井 一幸

 

打撃コーチ

77 吉村 禎章

 

外野守備・走塁コーチ

87 清水 雅治

 

投手コーチ

81 吉井 理人

 

ブルペン担当コーチ 

75 厚澤 和幸

 

内野守備・走塁 兼 作戦コーチ

79 城石 憲之

 

バッテリーコーチ

74 村田 善則

 

投手

11 ダルビッシュ有(サンディエゴP)
12 戸郷翔征(読売G)
13 松井裕樹(東北楽天GE)
14 佐々木朗希(千葉ロッテM)
15 大勢(読売G)
16 大谷翔平(ロサンゼルスA)
17 伊藤大海(北海道日本ハムF)
18 山本由伸(オリックスB)
20 栗林良吏(広島C)
21 今永昇太(横浜DeNA)
22 湯浅京己(阪神T)
26 宇田川優希(オリックスB)
28 高橋宏斗(中日D)
29 宮城大弥(オリックスB)
47 高橋奎二(東京ヤクルトS)
63 山﨑颯一郎(オリックスB)

 

捕手

10 甲斐拓也(福岡ソフトバンクH)
24 大城卓三(読売G)
27 中村悠平(東京ヤクルトS)

 

内野手

1 山田哲人(東京ヤクルトS)
2 源田壮亮(埼玉西武L)
3 牧秀悟(横浜DeNA)
5 牧原大成(福岡ソフトバンクH)
7 中野拓夢(阪神T)
25 岡本和真(読売G)
33 山川穂高(埼玉西武L)
55 村上宗隆(東京ヤクルトS)

 

外野手

8 近藤健介(福岡ソフトバンクH)
9 周東佑京(福岡ソフトバンクH)
23 ラーズ・ヌートバー(セントルイスC)
34 吉田正尚(ボストンRS)

※ 負傷により栗林良吏が離脱。代替選手として山﨑 颯一郎を招集

 

 

 

 

 

基本オーダー

1(中)ラーズ・ヌートバー
2(右)近藤健介
3(投)大谷翔平
4(三)村上宗隆
5(左)吉田正尚
6(一)岡本和真
7(二)山田哲人
8(遊)源田壮亮
9(捕)中村悠平

 

 

1次ラウンド

プールB:東京ドーム

第1戦
日本 vs. 中国
🇨🇳  0 0 0  0 0 1  0 0 0   1
🇯🇵  1 0 0  2 0 0  1 4 X   8
(日)大谷、戸郷、湯浅、伊藤 ― 甲斐
【本】牧1号                    

 

日本の先発は二刀流の大谷翔平。
格下の中国が相手とはいえ、過去の大会を見ても開幕戦は接戦となることが多いのだが、やはり序盤は重苦しい雰囲気の展開となった。
日本は、1回裏に無死満塁から村上宗隆の押し出し四球で1点を先制するが、このチャンスに日本の攻撃は1点のみで終わった。
その後は追加点を取れないまま中盤の4回、ランナー1、3塁から大谷翔平のタイムリー2ベースで2点を返した。
だが6回表に、2番手の戸郷がソロホームランを打たれて2点差となる。
ふたたび重い空気が漂うなか、7回裏に牧のソロホームランで1点を返す。さらに8回裏、交代した山田哲人が一死満塁からタイムリーを打って点差を広げた。 やはり山田哲人だと思う。 彼の初打席、「やま~だ、てつと!」の声援がスタジアムを支配したのだ。誰もがこの瞬間を待っていた。大谷翔平やダルビッシュ有への熱狂と期待とは明らかに違う熱量。こればかりは、大谷翔平にもダルビッシュにもできない、山田哲人にしかできないことなのだ。
中国代表で印象的なのは、ショートとキャッチャーの守備力が高いことだろうか。若く経験の浅い投手陣をよくカバーしていた。

 


第2戦
日本 Vs. 韓国
🇰🇷  0 0 3  0 0 1  0 0 0   4
🇯🇵  0 0 4  0 2 5  2 0 X   13
(日)ダルビッシュ、今永、宇田川、松井、髙橋宏 ― 中村、大城
【本】近藤1号、E.J.ヤン2号、 K.W.パク1号


日本の先発はダルビッシュ有。韓国は左腕の金廣鉉(キム・グァンヒョン)。
日本での登板は12年ぶりというダルビッシュは、3回表に捕手の梁義智にツーランホームランを打たれて先制を許す。さらに韓国ナンバー1プレイヤーの李政厚のタイムリーで3点差とされる。
だが直後の3回裏に侍ジャパンは、ヌートバー、近藤、吉田正尚のタイムリーで逆転!
5回裏には近藤のソロホームランで1点を追加。
侍ジャパンは第2先発の今永が6番の朴健祐のソロホームランを打たれて2点差に詰められるが、6回裏に大谷、吉田、岡本らのタイムリーで5点を奪い試合を決めた。
序盤は緊迫した展開だったが、中盤以降は侍ジャパンの打線がつながり韓国を圧倒した。韓国はまさかの2連敗で苦しい状況に追い込まれた。

 

 

 

 

 


第3戦
日本 vs. チェコ共和国
🇨🇿  1 0 0  0 1 0  0 0 0   2
🇯🇵  0 0 3  4 1 0  0 2 X   10
(日)佐々木、宇田川、宮城 ― 甲斐
【本】牧2号

 

侍ジャパンの先発は令和の怪物・佐々木朗希。
佐々木は1回表に2死から3番フルプにツーベースを打たれ、直後に悪送球で1点を先制される。
侍ジャパンはチェコ共和国の先発・サトリアの緩いボールにタイミングが合わず苦しむが、3回裏に吉田正尚、山田哲人のタイムリーで逆転する。
さらに4回裏にはヌートバー、近藤、大谷翔平のタイムリー、吉田正尚の犠牲フライで点差を6点に広げた。
先発の佐々木朗希は3回2死を1失点はあったものの、8奪三振の好投。5回からの宮城大弥も被安打2の失点1、5連続を含む7奪三振で5イニングを投げきった。
打線は代打・牧のホームランなどで追加点を挙げ、試合を決めた。

 

 

第4戦
オーストラリア vs. 日本
🇯🇵  3 2 0  1 1 0  0 0 0   7
🇦🇺  0 0 0  0 0 0  0 0 1   1
(日)山本、高橋奎、大勢、湯浅、髙橋宏 ― 中村、大城
【本】A.ホール1号、 大谷1号

 

1次ラウンド首位通過をかけての大一番。
侍ジャパンの先発は山本由伸。
侍ジャパンは1回表に、無死1、2塁から3番大谷翔平が第1号となるスリーランホームランで3点を先制。
さらに2回表にもヌートバー、近藤の連続タイムリーで2点を追加。5回表には中村悠平にタイムリーが出て点差を広げた。
先発の山本由伸は4イニングを被安打1、失点0、8奪三振の完璧すぎるピッチング。
第2先発の高橋奎二も2回を被安打1で抑え、つづく大勢、湯浅、髙橋宏斗も1イニングずつをきっちり投げきり、プールBの1位通過を決めた。

 

 

爆ぜる東京ドーム

熱狂!東京プール

5大会連続ともなれば、そこには一種の儀式的安定感が生まれるのではないか。

最大ボルテージを維持しつづける東京ドームの狂乱と狂騒の中、侍ジャパンは危なげなく1次ラウンドを突破した。

準々決勝の相手はイタリア。あのマイク・ピアザが率いるチームだ。プールAの混戦を抜け、2位で滑り込んできた。

ここに至るまでの景色には、何かしらの物語があったに違いない。

 

MVP大谷翔平

東京プールの1次ラウンドMVPは大谷翔平。この名前が示す圧倒的な存在感は、もはや説明不要だろう。

彼の二刀流が光を放ち、チームを牽引するその姿に、我々は次第に期待と安心を重ねていく。

しかし、栗山監督が今回の大会で我々に見せた「奇跡」は実は別のところにあったのではないかと、個人的には思っている。

 

ヌートバーとの邂逅

それは、ラーズ・ヌートバーの出現である。彼と日本国民との邂逅。何か異質で、けれども奇妙に馴染む存在。

この異文化的な交感が、侍ジャパンという集合体に新たな軸を与えた。

そして、その軸こそが幸福感の正体だったのではないか。


あの時間。大谷翔平の豪快な一振りとはまた異なる意味で、侍ジャパン史上、これ以上ないほどに満たされた時間だった。

そしてそれは、5大会連続の1次ラウンド突破という結果よりも、遥かに価値あるものだったのかもしれない。