北京五輪予選L中国戦:スポニチ
平成20年8月20日のスポーツニッポン
北京オリンピック。あの頃、世界はまだ単純だった。野球の出場国は8で、総当たり7試合で上位4つが生き残る。
まるで古代ローマの闘技場。負ければ終わり、勝てば次、血と汗とスポーツ新聞。
それに比べて東京オリンピックは6チームで試合数も少ない。
侍ジャパンは無傷の5連勝で金メダル。
強い。強すぎる。完璧。
だが──何かが足りない。胃袋に残る空気のような、祝勝会のあとに訪れる虚無。
「これでいいのか」という、意味のない問いだけが、夜中の冷蔵庫の前で立ち上がるのであった。
というわけで、北京。決勝トーナメント進出をかけた中国戦である。

「ストレス発散コールド」
なんだこの言葉。野球か、それとも居酒屋の愚痴か。だが確かに、打って打って打ちまくるあの感じ、日常で溜まった澱を一気に吐き出すような、あの暴力的な爽快感。
下品? 上等だ。
スポーツとは本来、下品な歓喜の装置である。しかも相手は中国。プレッシャー? 少ない。精神的にぬるい。
だが、こういう試合が一番危ないのだ。ぬるま湯は人を腐らせる。勝ちながら腐る。それが一番タチが悪い。
そして北京といえば──星野仙一。
とにかく目立つ。選手より目立つ。カメラが監督を追い、怒号が空気を震わせ、ベンチが一種の演劇空間と化す。
「いま誰が戦っているのか?」
そんな疑問がふと頭をよぎる。グラウンドの上か?ベンチか?それともテレビのこちら側か?わからなくなる。
だが、わからなくなった時点で、もうそれは“何かがズレている”というサインなのだ。

先発は涌井秀章。ああ、まだ西武の若きエース。時間というやつは残酷で、
過去をいとも簡単に「まだ〜だった」に変えてしまう。
7回コールド。2安打完封。ナイスピー。非の打ちどころがない。中継ぎも休める。
完璧。完璧すぎる。だが、完璧なときほど、人は何も見えていない。
この勝利を踏み台に、星野ジャパンは予選リーグ最終戦へ向かう。勢いよく。何の疑いもなく。
そして──あれがこれになり、これがそれになり、すべてが少しずつズレていく。歯車が噛み合っているようで、実は一枚ずつ削れている。
誰も気づかない。
気づいたときには、もう遅い。前進しているつもりで、ただ破滅へと歩いている。野球とは時に、勝ちながら壊れていく競技である。北京の空は、あのとき確かに晴れていた。だがその青さの裏で、静かに、確実に、最悪の結末が育っていたのだ。
誰も知らずに。
いや──知ろうとしなかっただけかもしれない。
発行日:2008年 8月20日
新聞名:スポーツニッポン
大会:北京五輪予選L中国戦
対戦カード:侍ジャパン vs 中国代表
内容:試合結果と主力選手の活躍