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2次ラウンド
プール1:ペトコ・パーク
侍ジャパン、サンディエゴの地に立つ
東京ラウンドを2位で通過した侍ジャパン。これでアメリカでの2次ラウンドへの進出が決まった。
この地で繰り広げられるのは、日本、韓国、メキシコ、キューバ── 四者四様の運命が絡み合う壮大な闘争劇だ。
メキシコシティラウンドからは、メキシコとキューバという名の異国の巨人たちが駒を進めてきた。
彼らがもたらす挑戦は、決して易しいものではない。東京ラウンドで侍ジャパンが見せた安定感、投打における緻密な戦略、その全てが次なる舞台でも試される。
だが、ただ勝つだけでは足りない。勝利は美しくなければならないのだ。韓国との宿敵対決、メキシコの意外性、キューバの圧倒的な攻撃力── このすべてが、サンディエゴという名の劇場を一層濃密なものにする。
GAME1
キューバvs日本
🇯🇵 0 0 3 1 1 0 0 0 1 6
🇨🇺 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
(日)松坂、岩隈、馬原、藤川 ― 城島
【本】
日本の初戦はキューバである。先発は松坂大輔。
アテネ五輪、2006WBCでキューバに快勝している。とくにアテネ五輪での勝利は、野球日本代表史上初の五輪でのキューバ戦勝利である。
一方のキューバの先発はチャップマン。大会前から都市伝説のような逸話とともに紹介されていた投手が、遂にヴェールを脱ぐ、とのことで大変盛り上がった。
以前の日本代表に見られたキューバに対する過剰な力みや苦手意識はもうない。風格すら漂う松坂のピッチングである。6回を5安打8奪三振無失点に抑えた。
打線は3回表に3点を先制しチャップマンを引きずり降ろし、その後も小刻みに追加点をあげた。侍ジャパンらしい、つなぎの攻撃が見事に機能して6対0で勝利となった。
GAME2
韓国vs日本
🇯🇵 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1
🇰🇷 3 0 0 0 0 0 0 1 X 4
(日)ダルビッシュ、山口、渡辺俊、涌井、岩田、田中─城島
【本】
第2戦は今大会3度目となる韓国戦である。先発はダルビッシュ有。
松坂よりいいピッチャー、という触れ込みでアメリカでの注目度も高かったダルビッシュたが、初回に少し制球が乱れたところを韓国に狙われ3点を先制された。
2回以降は5回まで無失点6奪三振と安定を取り戻しただけに初回が悔やまれた。
打線はキューバ戦のようには打線がつながらず韓国に抑え込まれ、4対1で敗戦となった。
GAME3
キューバvs日本
🇯🇵 0 0 0 2 1 0 1 0 1 5
🇨🇺 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
(日)岩隈、杉内─城島
【本】
第3戦は敗者復活戦となるキューバ戦。ここで負けると終了の大一番となった。
濃い霧が立ち込めるなかで試合は始まった。
日本の先発は岩隈久志である。
この日の岩隈のピッチングは芸術品のような美しさだった。低めを丁寧についてゴロを量産していった。つづき杉内も3回を被安打0、無失点に抑える完璧なピッチングであった。
打線は4回表に青木から、この日4番の稲葉がつないで小笠原の先制打が生まれた。その後も打線がつながり3点を追加し5対0で準決勝進出を決めた。
GAME4
韓国vs日本
🇯🇵 0 2 0 0 0 0 0 3 1 6
🇰🇷 1 0 0 0 0 0 1 0 0 2
(日)内海、小松、田中、山口、涌井、馬原、藤川 ― 阿部
【本】内川1号
第4戦はサンディエゴラウンド1位通過をかけ、4度目の韓国戦である。
ある意味消化試合でもあるので、投手陣は主力を温存する起用となった。先発は内海哲也で、そこから小松、田中、山口、涌井、馬原、藤川と小刻みに継投し2失点に抑えた。
打線は先制された直後の2回表に内川の特大ホームランで同点に追いつくと、片岡のヒットで逆転した。7回に追いつかれたが、すぐにまた青木、稲葉、小笠原がつないで勝ち越し。
6対2で勝利となった。だがこの試合で村田修一が右足を痛めて戦線離脱となり、日本から栗原健太が緊急招集されることとなった。
決勝ラウンド
SEMI FINAL:ドジャースタジアム
日本vsアメリカ
🇺🇸 1 0 1 0 0 0 0 2 0 4
🇯🇵 0 1 0 5 0 0 0 3 X 9
(日)松坂、杉内、田中、馬原、ダルビッシュ─城島
【本】
準決勝はアメリカ戦。
日本代表は打倒キューバを目標にオリンピックを戦ってきたが、日本球界全体で考えてみれば、常に追いつづけていたのはアメリカである。
親善試合に近い日米野球でもなく、メジャーリーガー不在のオリンピックでもない、WBCでアメリカ代表に勝つことこそが日本球界誕生からの悲願のひとつとなったことに間違いはない。
前大会では不運もあり、アメリカに勝利することはできなかった。今大会では舞台は準決勝となり、ドジャースタジアムである。
日本代表の先発は松坂大輔。アメリカ代表の先発はロイ・オズワルト。松坂同様にシドニー五輪のアメリカ代表でもあり、アストロズのエースピッチャーであった。
前大会のお返しとばかりに、1回表にアメリカ代表は先頭打者ロバーツが松坂の2球目を強振してホームランである。だがそこで乱れる松坂ではなかった。そこから5回途中までを2失点にまとめた。
打線は1点を追う2回裏に稲葉、小笠原のヒットエンドランから城島の犠牲フライで同点。勝ち越された直後の4回裏に打線がつながり5点を奪って逆転。8回に2点差に詰められるがすぐに3点を追加し突き放した。最後は不調の藤川に代わり抑えにまわったダルビッシュが締めて9対4で勝利し、決勝進出を決めた。
FINAL:ドジャースタジアム
韓国vs日本
🇯🇵 0 0 1 0 0 0 1 1 0 2 5
🇰🇷 0 0 0 0 1 0 0 1 1 0 3
(日)岩隈、杉内、ダルビッシュ ― 城島
【本】
決勝は今大会5度目の対戦となる韓国である。
ここまで2勝2敗ときて、雌雄を決するにはこれ以上ない舞台である。
そしてこの決勝戦は、日本球界で永遠に語り継がれるであろう世紀の一戦となった。
日本の先発は岩隈久志である。
試合は緊迫した投手戦となり、侍ジャパンは3回表に小笠原のタイムリーで1点を先制するが、5回裏にメジャーリーガー秋信守のホームランで同点に追いつかれる。
岩隈は8回途中まで2失点で抑え、杉内につないだ。打線は7回表に中島のタイムリー、8回に岩村の犠牲フライで計3点をとり1点差で9回をダルビッシュに託した。
だがダルビッシュはスライダーの制球が定まらず、韓国に同点に追いつかれ延長戦に突入した。
サヨナラ負けは免れたが、流れは完全に韓国に傾いていた。その流れをイチローが引き戻した。大会を通じて不調だったイチローが、2死2、3塁でセンター前に2点タイムリーを放ち勝ち越しに成功する。10回裏は続投のダルビッシュが今度はきっちりと締めて日本はWBC連覇を達成。
日韓三年戦争の終焉
WBC2006、あのとき、イチローが放った「向こう30年は勝てないと思わせる」── あの一言。
刹那、歴史の歯車が音を立てて動き出し、やがて「日韓三年戦争」と呼ばれる一連の熱狂的な対決の幕開けとなった。あの言葉は単なる「発言」ではなく、言うなれば未来を指し示すプロローグであり、その結末が訪れるのに、そう、ちょうど三年を要したのだ。
北京五輪という通過儀礼
WBC2006で撒かれた種は、その後の北京五輪という「通過儀礼」によって発芽した。日韓戦── この一言だけで両国の緊張感がピークに達する舞台。
予選リーグ、準決勝、その全てが壮絶であり、その一つ一つが、両国の記憶に深く刻み込まれることとなる。
しかし、これだけでは終わらない。この物語にはさらに大きなクライマックスが用意されていた。
WBC2009── 一つの大会で四度の対決を経て、最後に決勝戦。
舞台はロサンゼルス。
劇的なまでに象徴的な結末を迎える場所として、この街ほど適切な選択肢が他にあるだろうか。
決戦の舞台とその後
決勝戦── その瞬間は、まるで過去三年間の全ての因縁と感情が凝縮された時間だった。
日本は勝利を掴み取り、その勝利が単なる「試合結果」に留まらず、野球という競技を超えた歴史的な意義を持つものとなった。
WBC、北京五輪という舞台装置が描いた日本と韓国の劇的交錯。この最終結末が、日本のプライドであると同時に、韓国のさらなる挑戦への火種となったのは言うまでもない。
新たな地平線
だが、これで日本と韓国の物語が終わったわけではない。「日韓三年戦争」という形容は過去のものとなったかもしれないが、野球という無尽蔵の物語装置が生むドラマの可能性は、今後も尽きることはない。
むしろ、この決勝戦が終わったその瞬間から、また新たなフェーズに突入していくのである。
WBC2009の残像
課題と可能性
観客動員数は、確かに前回大会を超えた。だが、それが何を意味するのか、誰が本当に理解しているのだろうか。
たとえば東京ドームで開催された1次ラウンド── その熱狂の裏に潜む「集客数のばらつき」という事実。
ホスト国日本以外の試合における冷え切った客席の光景。これは単なる現象ではなく、野球というスポーツそのものが直面する「国際大会の壁」の象徴にほかならない。
そして、今回採用されたダブルイリミネーション方式── 複雑な構造が生んだ、ある種のパラドックス。
日韓戦を増やすという意図そのものは明快である。その結果、日本は全9試合を戦い、そのうち5試合が韓国との対戦となった。
確かに大会全体の集客の数字は跳ね上がった。だが、このダブルイリミネーション方式が残した余韻は単純ではない。
同一カードの増加が生む新鮮味の欠如、スポーツとしての緊張感の薄れ。
次の大会で、この方式が1次ラウンドから排除されたことは、単なる運営上の判断ではなく、ひとつの物語の終焉ともいえる。
さらに、問題は終わらない。
シーズン開幕前という開催時期── 選手たちの調整不足がもたらす試合内容への影響。
利益配分の不均衡── 国際大会の枠を超えて渦巻くビジネス的な思惑。
そして審判の配置── 公正さという言葉が背負う過剰な負荷。
これらの問題群は、野球というスポーツが持つ構造的な脆弱性そのものを照らし出す。
だが、それでも。この4年に一度の大会に惹かれずにはいられない理由とは何なのか。その答えを見つけるために、我々は次回のWBCを待つ。
課題と可能性── この二項対立が生む緊張感こそ、WBCの本質である。
そして待つことこそが、この大会の持つ奇妙な魅力を証明しているのではないだろうか。