WBC2009キューバ戦:ニッカン
平成21年3月20日の日刊スポーツ
またしてもキューバ戦。デジャヴか?いや違う、これは現実だ。
前日の韓国戦でコテンパン、はい敗戦、はい敗者復活戦へようこそ。なんだこのシステム、ゲームか。
負けたら終わりのステージにワープしてくるこの感じ、コンティニュー画面にコインを入れる暇もない。
「はい次これ」というわけで、このキューバ戦で負けたら終わりの崖っぷち。

崖っぷち、崖の上でつま先プルプルさせながら立っている侍ジャパン、その先発が岩隈久志。
来ました静かなるエース。
前年、北京五輪落選という「なんでオレが?」という怒りと悔しさをガソリンに変えて、21勝4敗という、もう意味がわからない数字を叩き出した男。
21ってなんだ、週に一回勝ってもそんなにいかんぞ。で、満を持して代表入り、先発三本柱の一角。文句?あるわけない。あるやつはたぶん数字が読めない。

で、この日の試合、なんかもう雰囲気がおかしい。霧が出た出た出た、霧が出た。もやもや、もやもや、球場がふわっと包まれて、視界がちょっと曖昧になるあの感じ。
幻想的?いや、ちょっと怖い。ここでミスったら全部霧のせいにできそうな、でも同時に全部自分のせいにもなりそうな、妙な緊張感。
そんな中、マウンドに立つ岩隈。静かに、淡々と、でも内側ではたぶん火山が噴いている。そのギャップがまたカッコいい。夜霧とエース。絵になる。いや絵になりすぎてちょっと笑う。
5回、追加点のチャンス。ここでイチローがまさかのバント失敗。おいおいおい、と心が一瞬で折れかける。
「あ、ダメな流れ来た?」と、観てる側のメンタルが一斉にグラつくあの感じ。
だがしかし、ここで終わらないのがこのチーム。続く中島、青木で、はい得点。
さらっと点が入る。「え、入るの?」みたいな軽さで入る。さっきまでの不安なんだったんだ。
ここがこのチームの妙な強さである。イチローがすべてじゃない。もちろん中心だ、重力の核だ。でもそこだけに依存していない。
誰かがコケても、別の誰かがひょいと拾う。バトンが勝手に回る。システムが回る。個じゃなくて、全体がじわじわと動いている感じ。
これがまた、見ていて気持ちいいような、でもちょっと怖いような。

そして4回。小笠原のセンターフライ。はい普通のフライです、と思ったらセスペデスがポロリ。ポロリて。
いやこの状況でポロリはダメだろ、と言いたいが、これが勝負の神様の気まぐれ。霧のせいか?いや知らん。とにかくそれで先制点。1点。たった1点。
でもこの1点が重い。重すぎる。羽毛布団に見せかけた鉄塊。
で、紙面には炸裂する一文。「夜霧よ今夜もありがとう」
昭和全力投球!15年前とはいえ、いや15年前だからこそか、このセンス。だが嫌いじゃない。むしろちょっと好きだ。
こういう無駄にロマンを盛る感じ、スポーツ新聞の真骨頂である。しかし試合はロマンだけでは進まない。
崖っぷち、霧、エース、ポロリ、昭和、バント失敗、そして得点。要素が多すぎて頭が追いつかない。でもそれでも試合は進む。時間は止まらない。霧もいつか晴れる。晴れたとき、そこに何が残っているのか。勝利か、終わりか。
その境界線の上で、侍たちは今日もバットを振り、ボールを投げる。
こちらはただ、笑ったり、ヒヤッとしたり、時々ちょっとだけ黙ったりしながら、それを見ているしかないのである。
発行日:2009年 3月20日
新聞名:日刊スポーツ
大会:WBC2009サンディエゴ・ラウンド
対戦カード:侍ジャパン vs キューバ代表
内容:試合結果と主力選手の活躍